言語人類学の専門性を高めることに重きをおいた自主ゼミを仲間うちで行うことにしました。方法論全体を理解していくにあたっておすすめの本はありますか?(学部4年生)
自主ゼミいいですね! 特に、自分で勝手に読み進めていけないような書籍を読みこなしていくのに自主ゼミの形式は適していると思います。さらに、それぞれの得意・不得意を把握し合える関係で、読書を進めると、異なる視点や知見を得るきっかけにもしやすいはず。とはいえ、あーだこーだ考えてもやってみないことにはよく分からんでしょう。少し考えて思いつく文献を後編・基本編で挙げてみます。
この記事は最初に書きますが、前編・応用編です。なぜなら少し抽象的で、ある程度は後編・基本編で挙げるような文献を読みこなすサイクルを積んだ後につかめてくるような内容になっているからです。けど、繰り返し、立ち戻ってくる内容を含むし、大まかな方法論の見取り図をつかむ、という観点から最初に紹介します。
とはいえ、ただ紹介しても味気ないようにも思います。勉学を始めたてはいくらトレーニングをしても重いギブスを付けているように、苦しい期間もあるはずです。できれば、その踏み出した一足を少しずつ軽やかなステップに、そして自分の研究に取り組む助走につなげるにはどうしたらいいか。そんなことも思いつつ、もしかしたらただの蛇足で、役立たないかもしれないけど、いつかじわりと役立つ「方法論」について、いくばくか勝手に語ります。
方法論の大まかな捉え方
まずはじめに、方法論とはなにか。ここでは、方法論を二つの観点から紹介します。
①論述の妥当性を高める方法
基本的に方法論は学術的な論述の妥当性を高める方法を敷衍したり、時に体系化したりする考え方を指します。つまり、学術的な分析・主張といった論述そのものを、一段階、メタ的に捉えるための考え方をまとめたものです。そのように、方法論(methodology)を捉えると、手法(method)はインタビューや談話分析といったデータ分析のためのテクニックと、分けて考えることができます。
では、方法論を成り立たせる具体的な要素はなにか。野村康『社会科学の考え方 認識論、リサーチ・デザイン、手法』 (2017: 2)にならうと、方法論とは「認識論 + リサーチ・デザイン + 手法」の組み合わせで成り立ちます。この組み合わせは相互に関係していますよね。そこで、自らが論述する内容の方法論的妥当性を高めるということは、この「認識論 +リサーチ・デザイン + 手法」の関係性を論理的に、つまり根拠をもって説明できることを意味します。
とはいえ、この説明は「社会科学」を論じるにあたっては大まかに当てはまるのだけれども、「人文学」となるとそう単純でもなく、さらに「社会科学」の中にも「人文学」の考え方を強く取り入れているものがあります。ここではややこしいので詳しくは説明しませんが、とりあえず「理論(存在論 + 認識論 + 学術理論)」は研究の土台となる考え方である、ことを抑えておけばいいと思います。
学部生にとって特に大事なのは、リサーチ・デザインです。リサーチ・デザインは、研究の問い(リサーチ・クエスチョン)に対する主張や結果をまとめあげていくプロットのようなものだと思ってください。具体的には、事例研究、実験、縦断的研究、横断的研究、といったものがリサーチ・デザインです。研究においてなんだかんだいって一番大事なものは、研究の問いです。問いがなければ、研究は定まらないし、始まりません。なので、研究事例を読みこなしながら方法論を理解する上で、「この研究や論文の核たる問いはなにか」は常に意識しましょう。そうすると、全体的な研究に対する観察眼が養われます。
②研究者個人や組織がつくった方法の集積
方法論は、個別の研究に宿りますが、だんだんとそれは研究者集団に共有されていくものでもあります。言うなれば、方法論はメタ的であると同時に、方法の集積物です。それを集団的に共有することで、研究の妥当性を検証できるし、継承もされていくと言えます。言うなれば、方法論を知ることは研究者集団の傾向を読み解くことにつながります。
そのように考えると、方法論は一種の研究者集団を媒介するイデオロギーみたいなものです。個々の問いや事例によって、そのイデオロギーは研究の妨げにもなりえます。方法論に惑わされないためにも、「問い」は大事なわけです。問いが大事だということは、自分で問いそのものを考えることが大事だということです。ここはもう、本当に誰かに言われて問いを導けるわけでもないので、がんばりどころと言えます。
事例と系譜の相互参照
少し抽象的な話が続いたので具体的な読書法を一つ提示できればと思います。ズバリ、ひたすらに「事例と系譜の相互参照」をしまくることです。どういうことか。まずは、基本的な「入門書」を一読ぐらいしましょう。ここはざっとでいいです。ふーん、こんな感じなんだ、くらいで読み流してあまり深く考え込まないくらいにしましょう。少し基礎的な知識が付いたら、関心のある事例を集めます。きっとはじめのうちは、少数の関心のあるキーワードからバラバラの事例を集めてしまうと思います。そこで、「これはやってみたい!」とか「やれそうだ!」と思える事例に絞っていきましょう。事例を絞ったら、一読し、その研究分野を概説するさらなる入門書をざっと読み、さらにテーマ毎にまとめた論集を見てみるといいです。そうやって、個々の事例とその歴史的な展開をおさえていきます。また、学術論文や単行本でも、研究の系譜を中心にまとめてくれているものもあるので、そうした参考文献を意識して探すのもおすすめです。
はじめは、入門書であれば「線」、事例であれば「点」にしか見えないと思います。ですが、何度も入門書と事例を往復していると、特定の分野やジャンルの関係が見えてきます。言うなれば、これは関心領域の「通」になるためのステップです。何度も同じ道を進めば―書いたり、話したり―、そのパターンを理解し、個々の研究や分野の何が似ていて、何がどう異なるのか、が説明しやすくなってきます。
しかし、学術的な論文を書くにあたって、重要なのは理解と説明の精度です。ここは一朝一夕にはいかないことなので、時間をかけるしかないと思っておきましょう。ぼくが思うに、学部3, 4年生から研究に取り組む人には難しい領域です。なんだかんだ3, 4年くらい、繰り返し経験していないとわからない気がします。ただ、こういうステップは小さくても踏んでおいた方がいいです。ある程度こなしたら、あとは書きながら「身体」で覚えるしかないところでもある気がします。Good Luck!